Ruruto

特集

これからの私に一番やさしい
米沢の着物

板締絣 白たか織佐藤新一

着物:「縞の白たか織」

帯:「輝」齋英織物
絣の着物は生産数が少なく今回の取材では入手することができませんでした。地風が絣と同じこの縞の着物も、本塩沢や西陣御召よりも少し太い撚糸を使っているためシボが大きくサラサラしています。

白鷹町にわずかに二軒

白鷹だけの独特の技法

「五月雨を 集めて早し 最上川」と松尾芭蕉の句に詠われた最上川の上流に、朝日連峰を望む小さな町があります。その名も白鷹町。霊鳥白鷹が飛来したことで名付けられた白鷹山の麓にある小さな町に、独特な技法が残っています。かつては20軒ほどあった機屋は現在わずかに二軒のみ。細々と制作を続けています。『るると』取材班はそのうちの一軒、「佐藤新一」を訪ねると、代表の佐藤新一さんが白鷹町だけに残された技法を丁寧に説明してくれました。
白たか御召の最大の特徴は小絣で、精緻な点の連続で描かれる繊細な絣模様と大きなシボにあります。その絣を作り出しているのが「板締絣」、通称「ぶっかけ染め」と呼ばれる二つの技法というわけです。
着物の柄ごとに、30枚から50枚程度の板を使います。板締めの性質上あまり大きな繰り返し柄を作ることはできません。
まず道具ですが、硬く、変形しにくいイタヤカエデの板に、細く精密な溝を掘ります。昔は専門の板大工さんがいて、自分の手に合わせた「しゃくり鉋」という独特の道具でシャーッ、シャーッと溝を掘っていました。夏は大工仕事がありますので、板を作るのは冬の、雪中の仕事です。今は専門の板大工さんがいなくなり、大工さんに丸鋸で少しだけ歯を出して削ってもらっていますが、わずかの狂いも許されないので、いずれにしても大変な仕事です。

材料も職人も

イタヤカエデの中心部分は年輪の都合で絣板には使えないため、端のほうで反物の幅がとれる材木のサイズとなるとかなりの樹齢の大木となります。そんな大木も昨今では少なくなっているそうで、コレだ!と思う材木を運良く入手できても、切ってみると年輪が不規則だったり、節があったりと当たり外れもあって材木の入手から困難になっているという悲しい状況だそうです。
さて、その溝を掘った板の、溝に対して直角に、強撚糸を糸と糸が重ならないように丁寧に巻き付けていきます。巻き付けるだけでも緻密で何日もかかる仕事です。そしてそこにもう一方の板をピッタリと0.1ミリの狂いもないない精密さで重ね合わせます。溝の位置がずれてしまうと絣が乱れてしまうからです。それを次々に重ね合わせて積み上げていき、ボルトをレンチでギリギリと締め上げていきます。キツく締めすぎると繊細な絹糸は切れてしまうのですが、緩すぎると溝から染料がにじみ出て絣がぼやけてしまいますので、この締め具合が難しいところ。何キロで締め上げるのかを尋ねても、数値では表現できない長年の勘だけが頼りだといいます。しかも、染め始めたら途中でボルトを締めて染め具合を確認することができない一か八かの仕事です。ここまでが「板締め」の技法。
次が「ぶっかけ染め」ですが、まずこの80キロ近い絣板のカタマリを、染め船と呼ばれるところにドーンと乗せます。

ひたすらぶっかける

そして、もの凄い火力でグラグラと煮え盛っている鍋から大きなひしゃくですくった熱々の染料を染め船の上の絣板にぶっかけます。湯気がブワ~っと騰がって蒸し風呂のようになりますが、とにかくひたすらすくってはぶっかけ、すくってはぶっかけを繰り返します。回数が決まっているわけではなく、勘で「染め上がったな」と思うまで染めるのですが、多分、少なくとも二百回以上はぶっかけています。溝のあっちからもこっちからも染料が入るようにするために、染料を吸ってさらに重くなった岩のカタマリのような熱々の絣板の向きを途中で何度も変えてはぶっかけ、変えてはまたぶっかけることを繰り返します。まさに「ぶっかけ」の名にふさわしい染め方です。「よし」と思ったところで媒染剤と水をかけます。朝から晩まで一日中頑張っても、せいぜい一回か二回が限度というので、この染め方のすさまじさはおおよそ見当がつきます。
かつては農閑期に染織をしたので、そもそもぶっかけ染めは冬の仕事ですが、一年中機を織るようになっても染めは冬の仕事。
染め終わった絣板の重たいカタマリは、染料を吸って染める前より格段に重くなって、ホカホカにあったまっています。それを染め船から床にドッコイショとばかりに下ろし、まだ熱々の絣板のボルトを緩めて1枚目をそ~っと持ち上げると、見事なまでにクッキリとシマシマに染まった糸が湯気を出しています。

新しい時代へ

糸の上半分は緯糸で、板と板のフチからちょっとだけ糸がはみ出していて、それが反物の縁になります。そこに棒を通して丁寧に板に貼り付いた糸を剝がしていきます。下半分の経糸は2センチほどの幅のきしめんのような状態にくっついていて、パリパリと板から外してもくっついています。四反分を同時に染められますので、少なくとも糸は50メートル以上。糸が、板の表と裏で折り返す部分の絣も板の厚みが計算されていて、板と板の厚みが計算されていて、板と板の継ぎ目になる部分の絣も、寸分の狂いもない。板の厚みと、板の掘られた溝のサイズがまったく同じという、神業なのです。
材料不足、職人不足、重労働という白たか御召は、携わる人も減り生産量が激減しています。
「佐藤新一」では、そんな中、織り手を確保して、縞の御召や草木染の浮き織りの八寸帯など新しい作品にも挑戦を始めました。時代の流れでその灯火が消えかけている技法ですが、残った二社は時代に合わせたカタチで、これまで培ってきたノウハウや技術を生かしながら新しい物づくりへと変化を遂げている途上でした。