Ruruto

特集

これからの私に一番やさしい
米沢の着物

自然の素材の色を操る 野々花染工房

着物:「みなも」
藍だけでなく、たまねぎ、栗、紫草、五倍子などの草花の染料で染めた糸で、ところどころに眼鏡織で横段の味を出しました。

帯:「銀嶺」(帯袋)よねざわ新田

自然の素材から色を抽出

草木染で有名な野々花染工房の諏訪家も、初代は上杉鷹山公の藩政改革の折に機屋を創業し、脈々と伝統の技と心を受け継いでいきました。
五代目の諏訪好風さんは、祖父や草木が染をする背中を見て育ち、最初は染料を煮るための薪割からこの仕事を手伝い始めたといいます。そして、故瀬戸内寂聴さんの小説『比叡』の中の「貝紫のきものにサフラン染の帯を締めることは女の最高のぜいたく」をいう一節と出会ったことでサフラン染の研究を始めたといいます。めしべ数百本からわずか1グラムの染料しか採取できないという貴重で難しいサフランの美しい黄色を染め、その後、貝紫の研究にも取り組むなど、草木染による米沢織では第一人者となりました。昭和61年には雪国では難しいとされる天然灰汁発酵建による正藍染もスタートさせました。
今回取材させていただいた六代目の諏訪豪一さんは父の好風さんの後を歩みつつ、藍瓶を守るのも今や豪一さんの大切な仕事のひとつになりました。取材の日、ちょうど「絶好調です」という見事な美しい藍花を見せていただくことができました。
豪一さんは今、好風さんと同様にさまざまな草木から色をいただき、豪一さん自らの色を生み出していきます。
紅花、紫根、茜は12月から3月までの凍てつくような厳寒の日に染めると良い色が出るといいます。地下水を利用しているので冬のほうが安定度が良いのだそうです。

  • 藍染の原料である蒅(すくも)は、四国から取り寄せています。天然灰汁発酵建によるもので、毎日蓋を開けて、刻々と変わる藍の機嫌をうかがっています。藍瓶は八つ並んでいて、それぞれの個性を作品ごとに使い分けています。発酵を促進するために、日本酒を入れることもあります。毎朝、藍瓶の部屋にある神棚に手を合わせてから藍を攪拌(かくはん)し、糸を染めます。

  • 藍の花がグラデーションになっているのは、今日、昨日、一昨日と、攪拌した日により色が変わるため。

  • 真ん中は、訪問着「雨につばくら」
    五月雨の静けさと、くるりと翻(ひるがえ)る燕(つばめ)の躍動感を表現したすくい織訪問着。

  • 桜染の糸からほんのりと、桜餅のような香りがしてきます。自然の色をいただいたことを実感できる瞬間。色の濃淡は作品に必要な色をイメージで染め分けています。

  • 着物:雪つむぎ 帯:「色のおと」

失敗した分がノウハウになる

豪一さんの代になってから特に注力しているのがその藍染と、もう一つが桜染です。
桜の花びらの色をいただくため、雪害で折れて落ちてしまった枝を用います。桜が神聖なもので精霊が宿るため、枝を切ることはしません。ほんのりと赤みを帯びた美しい色が出せるのは花が咲く前の枝のみです。
自然の素材から色を抽出する草木染は、染める度に色が異なります。数回抽出してその都度染液を分けておき、どの染液を合わせて糸を染め上げるか、色を見て決めます。浸ける温度や時間は染まっていく糸の色を見ながら判断します。一回、一回が真剣勝負。自然と向き合う瞬間です。
「教えられてもできないと思います。マニュアルもありません。失敗したらその分、自分のノウハウは増えていきます」と言います。
豪一さんが丁寧に染め上げた糸は、奥さんをはじめとした織子さんが織り上げます。
「よく『織り上げるのに三年の歳月がかかります』なんていう説明を耳にしますが、そんなにノ~ンビリ織っていたらウチでは即クビ」などと言いながら、指先が藍で真っ青に染まった大きな手を自分の首にチョンと当てるジェスチャーをしながら、さりげなくジョークを言う時のいたずらっぽい笑顔。あっという間に周囲を和ませてしまう優しい雰囲気は、自然と共に生き、自然に感謝しながら暮らしていてこそでしょうか。

米沢で一番古い機屋 白根澤

250年前から織物一筋

城下町の風情をしのぶことができる重厚感のある白根澤本社の建物は、今は社長の白根澤義孝さんとご家族が自宅として住んでいます。その庭にある蔵とともに二百年前からここに建っているといいます。義孝さんは十一代目。ここを訪ねると、江戸時代の大福帳や、表紙が薄くかすれて歴史を感じさせてくれる縞見本帖などの中に、代々受け継がれてきた作品そのものの裂端が記録されています。 「歴史があることがうちの強み」という義孝さん。それらの見本帖を見て、どう織られているのか?何で染めたのか?を研究しながら復元に努めています。 一方で、常に新しい作品を見せてもらえるのも楽しみのひとつです。現在一番の代表作とも看板商品ともいえるのが「もじり織」です。 先代である十代目の孝毅さんは、このもじり織で、日本伝統工芸展に入選し、正会員になるチャンスを手に入れます。しかし、そのことでもじり織をはじめとする着物や帯の値上がり、普段に着用してもらいにくくなることを懸念して正会員を辞退しました。 「なんで、そんなすばらしい機会なのに、自ら放棄しちゃったのか?残念で仕方なくて疑問だったのですが、その意味をオヤジから聞いたときに納得しました。やっぱり着てもらってこそ価値があるのだと思います」と義孝さん。それ以来、着てもらうことをモットーにして、おしゃれで来やすい着物を目指しているといいます。

時代によってやるべきことは変化する

かつて、ものが不足している時代には、設備投資をして思い切った改革で、多くの着物を市場に供給したこともありました。
今は少量多品種の時代という先代の孝毅さんの言葉どおり、義孝さんも多種多様の織物にチャレンジしています。
絹のダイヤモンドともいわれる天蚕(養蚕ではなく、山に自生している蚕)を用いた織物や、ジャガードで家紋や名前などを織り出し、お召しになる方の唯一無二の着物を制作したこともありました。
そしてもじり織と並んで、長く白根澤の人気商品の紅花の帯は、紅花を刺繍したようにも見えますが、実はジャガード織で織られています。紅花が描かれた部分にだけ紅花で染めた糸を用いたものでロングセラーの人気商品になっています(下でモデル着用の帯)。

着物:「板締絣」
白たか御召は強撚糸を使っていますが、こちらは極力無撚に近い糸で織っているのでシボは一切なく、しなやかで艶のある生地に仕上がっているのが特徴です。

帯:「ロートン織九寸帯」
昔から、最南の産地沖縄と最北の産地米沢は深い繋がりがあり沖縄の織技術が米沢にも伝承されています。凸凹感のある変わり組織織で米沢風にアレンジしました。
帯:「紅花」

着物:「麗月」齋英織物
着尺:「涼風」(もじり織)
経糸を文字どおりもじって、絡めて織ることができる隙間が透けて見えることが特徴です。温暖化が進む昨今、スリーシーズン対応の着物として着用するのも良いですし、羽織や塵除けコートを作る方も増えています。
着物:「涼風」(もじり織)
縞柄の中に、よく見ると「いろはに・・・・」という文字の部分だけが透けている、シャレ心たっぷりの着物。
帯:「栗繭八寸帯」
栗に自生する蚕、栗繭からそのまま引き出した色。濃い部分も薄い部分も一切染めていない栗そのものの自然の色が趣を感じさせてくれます。