特集
青磁鼠の江戸小紋万筋は茶人も好むつづまやかな着物で
一枚は欲しい年齢を選ばない着物です。
今回、撮影場所を提供してくださった桝屋髙尾さん。2020年に創業90周年を迎え、創業百年へ向かっていた2024年3月、先代髙尾弘さんが天に召されました。徳川美術館から𦁤金綴錦の復元を依頼され、幻とされた布の復元に果敢に挑戦し、見事に成功をしたエネルギッシュで研究熱心な方でした。
「一本の糸に、一片の裂に込められた先人の想いを想像するとき、新たな驚きと感動を呼び覚まされ、創作への情熱を駆り立てられる」という弘さんの魂を受け継いだ現社長の朱子さんもまた、新たな挑戦を続けています。
朱子 そうなんです。三姉妹。幼い頃から「会社を継げ」と言われたこともなくて、普通に学校を卒業して一般企業で働いていて、身体を壊したことをきっかけに会社に入ったんですけど「跡継ぎです」っていう顔して働くのも嫌だったので、いろいろな業務を全部経験させてもらったんです。3年間やってみて「継ぎたい」という気持ちになったらそのときに考えようって…。
朱子 ひと言で言うと、うちの帯が締めやすかったんですよ(笑)。実は、その3年間の間に着付け教室へ通って自分で着物を着られるようになったんですが、練習用の帯でお稽古して、いざ、父が開発した𦁤金の帯を締めたら締め心地が違っていたんです。締めやすいだけやなくて、着ていて楽やし、お太鼓の格好も良いし、もう、この帯締めていたらどこへ行っても大丈夫やな~って。
朱子 そう思わはる?うれしいわ。父が復元して開発した…、父は開発者やけど未着用やから、自分が着用者としてこの帯と関わっていきながら跡を継いでいったらって、明確にやるべき事ややりたいことが描けたんです。
朱子 それで、もう10年にはなりますが、材料のバリエーションを広げることで少しカジュアルなものも作ってみようと…。
朱子 (笑)入社してすぐいろいろな業務をして、販売にも行ったんやけど、仕事をして割とすぐの頃、お客さんに「キラキラした帯、キライやねん」って言われて、その頃の私は何も言えなくて…。
朱子 それで、光らへん帯であったり、少し違ったものも桝屋髙尾のラインナップにあったらええんちゃうかな?と思ったんです。それから、箔をつや消しタイプにしたり、漆の箔を使ったりして、カジュアルをドレスアップして着るっていうポジションを作れるようになったんです。
朱子 漆をやって良かったことは、「黒」なんです。黒い帯を作れるようになったこと。うちは先代の父の時代から糸から作るんですが、芯に真綿を使って箔を巻いて作るのが𦁤金で、黒だと思っていた帯が茶色に見えたりすることがたびたびあって、それで、試行錯誤の末に、真っ黒の芯に真っ黒の漆箔を巻くことで本当の黒ができて、そうなると、朱色の芯に黒を巻くと漆風の、グッと趣味性の高い帯ができて…。
朱子 そうですね(笑)そうそう、うちでは今「締め心地体験」っていうのもやっていまして、締めていただいて良さを知っていただくっていうのも大事かなと。これからもいろいろなチャレンジをしていきたいと思っています。