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加賀友禅の作品には、下前の部分に小さな印鑑みたいなものが捺されています。「落款」と呼ばれ、誰が手がけた作品かを教えてくれています。それが作り手の誇りと責任であると同時に、作品をまとう人の誇りにもなります。
伝統工芸品は作り手が分かるものが多いものの、業界全体として作家の「落款制度」がある工芸品は多くありません。加賀友禅の作家は「加賀染振興協会の会員であり、そこにそれぞれの「落款」を登録していますが、ある一定の経験と技術に加えて品性と芸術性を持ち合わせた人でなければ「加賀染振輿協会」の会員にはなれません。この落款は「間違いない作品」という保証をしてくれているのです。
加賀友禅は、他の多くの染物と異なり、分業制になっていません。一人の作家が左図のような、たくさんの仕事を最初から最後まで手がけます。
作家になるためには、まず師匠に弟子入りをして修業をします。図案を作成する、下絵を描く、糊を置く、彩色をする、糊で伏せる……、と細かい作業まで入れれば気が遠くなるほど多くの工程があります。その工程のほぼすべてを師の下で学んでいくのです。最近は少し減ってきましたが、弟子の多くは住み込みで朝は土間の掃除から始まり家の隅から隅までを掃除し、お勝手の手伝いからちょっとしたお使いまで、寝食を共にして加賀友禅の技術だけでなく暮らしの心構えや生き方まで師の下で学ぶという厳しい世界でした。
また「加賀染振興協会」に「落款」を登録し、会員となるためには最低でも7年間この修業を続けなければなりません。もちろん7年で独立できる保証はなく、おおよそ10年がひとつの区切りといいます。年数の他に、師匠が「独立するにふさわしい」と判断し、師匠ともう一人、第三者の会員が推薦をする必要があり、これが認められると晴れて会員となり、落款の登録をすることができるというごまかしの一切利かないとても厳しい世界です。
スケッチをしておおよその線が決まり、構想が決まると実寸の図案を起こします。
13メートルの反物は白いまま断裁され、袖や裾などに分けられます。身頃と袖、袵(おくみ)と身頃など隣り合う部分は続けて染めます。
ぼかしや微妙な色のニュアンスもすべて筆で描いていきます。
今は自然保護の観点から、川で行うことはなくなってしまった「友禅流し」ですが、かつては金沢の風物詩のひとつでした。
加賀五彩
外ぼかし
虫喰い