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特集

文様に祈りと願いを込めて
二十歳の振袖
吉祥文様ものがたり

自然・動物文様

気象を表現する語彙が大変豊かな日本語。 雨を表す言葉だけでも100を超えるとか。感性と美意識が豊かな日本人は、水、雲、霞、雪、月などの自然現象まで文様化しました。メインで描かれることは少ないながら、場面を区切ったり、風景の一部となったり、メインの文様を生かしたりします。また、動物、鳥、昆虫といった生き物もまた、歌に詠み文様として描きました。

流水

流れる水は決して澱むことがないことから好まれます。振袖の背景には流水、観世水が描かれ、全体を引き立てています。

振袖:吉澤織物
新潟県知事賞受賞作
振袖:吉澤織物

有名なのは「鶴は千年亀は万年」という長寿の象徴の瑞鳥です。純白で、飛翔の姿の凛とした美しさ、高貴で誇り高い立ち姿ともに愛され、古くは「田鶴」と呼ばれて神鳥とされていました。有職文様では位の高い人の衣料に用いられました。鴛鴦と同様に、つがいになると生涯添い遂げることから夫婦円満の吉祥文様です。

吉祥文様の中では少ない虫類ですが、蝶は別格。奈良時代以降、その優美な姿や色の美しさ、舞い遊ぶ姿の可憐さなどから文様化され、平家ゆかりの家々の家紋や、有職文様にも用いられ、能装束や江戸時代の小袖にも多数描かれています。 また、つがいの蝶の仲睦まじい姿から夫婦円満の吉祥文様として振袖にもよく描かれます。

空想文様

想像上、物語上で生み出された東洋独特の動物が、仏教などと共に中国からもたらされました。理想をもとに、自由に描かれていることから吉祥性が高く、礼装で好まれるものから、趣味性の高いものまで多種多様な楽しみ方ができます。また、日本人独特の感性で描かれたものなど、表現に制限がないことから芸術性の高い作品も多く見られます。

辻が花

辻が花とは、辻…、つまり名もなき十字路に咲く、空想上の名もなき花を指しますので、季節感はまったくなく、一年中通して着用することのできる花です。しかし、辻が花というと、文様を指すよりも布の一部を絞る「染技法」として室町時代に一世を風靡した絞り染めの一種を指すことのほうが一般的かもしれません。 江戸時代に忽然と姿を消してしまったため、幻の染といわれました。 1962(昭和37)年に久保田一竹氏がその研究と試行錯誤の結果生み出した「一竹辻が花」として甦り、二代目に受け継がれて現在に至ります。 その後、多くの染工房が辻が花にチャレンジし、多種多様な絞り染めの振袖を生み出しています。

振袖:関芳
帯:織善 松田忍

桐竹鳳凰

織の紋様として、天皇の袍に善君の証として織り出されます。古代中国で、皇帝が天を祀ると竹の実をくわえた鳳凰が梧桐の木に舞い降りたという故事にちなんでおり、天皇専用の紋様でした。婚礼衣装や振袖に描かれるようになり、高貴な最高峰の文様とされています。

振袖:青柳

鳳凰

名君によって天下が太平になるときだけ現れるとされる中国で尊ばれた理想上の瑞鳥で、麒麟、龍、亀とともに四瑞(四霊)とされています。理想的に装飾化され、鶏の頭に燕の顎、蛇の首、亀の背、魚の尾、五色絢爛、鳴き声も五音にかない、日本には奈良時代に伝わりました。鳳凰の卵は不老長寿の薬とされ、不老長寿や永遠の若さの吉祥文様です。
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