Ruruto

特集

文様に祈りと願いを込めて
二十歳の振袖
吉祥文様ものがたり

器物文様

筆、家具、文房具、茶道具…
身の回りで使われているあらゆる器物が古くから文様化されました。
さりげなく、文様化してしまう日本人の美意識を強く感じます。中でも、槍扇や御所車など王朝風の文様は典雅な晴れ着にはふさわしく、振袖にも数多く描かれています。

振袖:久保耕
帯:河合美術織物

手毬(てまり)

手毬は、長い糸をくるくると巻き付けて作ります。糸巻きと同様に糸から転じて縁結びの意味があり、良縁祈願の意味を持ちます。産着や女児の着物にも描かれる吉祥文様です。また球体であることから、転じて丸く収まるように、円満な家庭などの祈りや願いが込められています。
手毬にはさらに重ねて吉祥文様が描かれています。

振袖:久保耕
帯:川島織物セルコン
  • 貝桶
    貝桶は、平安時代の遊びの貝合わせの蛤を入れておくための入れ物です。当時の女性は十代半ばで嫁ぐことも珍しくなく、嫁いでからは実家へは戻れなかった時代に、こうした遊びや玩具は嫁入り道具のひとつだったのです。遊び方は、蛤がもともと対の貝殻しか合わさらないことを利用した遊びで、夫婦和合、夫婦円満の意味があります。 ひな人形の道具の中にも貝桶が見られます。 六角形に蒔絵を施したものなど、すべて特別注文の豪華絢爛なものでした。文様化されてからは、良縁祈願の文様として振袖によく描かれるようになりました。

  • 貝合わせ、蛤
    貝桶と共に描かれたり、単独で描かれたりしますが、意味は同様に良縁祈願、夫婦円満で、振袖では貝桶や蛤の縁取りの中にさらに吉祥文様が描かれます。


  • 鼓をはじめ、雅楽を演奏するときに使う楽器は文様化されて描かれることの多いもので、いずれも典雅な姿に品格があり、王朝の雅の世界が晴れ着に描かれます。ことに鼓は「鳴る」が「成る」に通じ、豊作へ転じる吉祥文様でもあります。

  • 檜扇(ひおうぎ)
    扇は末広がりのその形状から「すえひろ」とも呼ばれ、末が広がることから吉兆の意味になぞらえて縁起の良い文様の代表格ともいえるほどよく描かれます。扇そのものを描いたり、扇状を象った地紙(扇に貼る前の紙)の中に縁起の良い文様を詰め込んだりと表現方法はさまざまです。 檜扇は檜の薄板の上部を絹糸でとじた扇で、平安時代の貴族が装身具として使っていました。組紐も吉祥文様であり、紐の流れや極点も美しく、華麗の極、慶事の文様として格調高い装いとなります。

  • 御所車
    車だけ、または車の一部が描かれることもあります。それらは「車文様」と呼ばれます。車いっぱいにあふれんばかりに花が描かれたものは「花車」と呼ばれ「幸せがあふれる」に通じます。御所車は源氏車を美しく文様化したもので、牛はめったに描かれません。古典的で文様として格の高さを表す礼装で好まれます。

  • 糸巻き
    能装束にも用いられる糸巻きの文様は、板状で正方形の四辺を凹ませ、十字にカラフルな糸を巻くタイプや、糸枠に糸を巻くタイプなどがあり、かつては鞠と同様に女児の着物によく見られた裁縫が上手になるようにとの願いが込められました。 糸巻きの別名は「千切り」。契りに通じ、良縁祈願や、長い糸が長寿を意味する吉祥文様です。

  • 矢羽根
    鎧縅や箙などとともに、武具が文様になったもので、必勝祈願を意味しますが、特に矢羽根は、弓矢の矢で、上部には鷲、鷹、鳶などの羽根があり矢羽とも書かれます。矢は飛んでいったら戻ってこないので、一度嫁いだら生涯添い遂げるという意味も。また神社から授与される破魔矢にも通じ、厄除けや幸運を射貫く縁起物でもあります。

  • 宝船
    室町時代に始まった習慣で、一月二日に良い初夢を見るために枕の下に宝船の絵を入れておくというところから始まりました。 米俵や宝物を山のように積んだ帆掛け船で、帆には「宝」の文字が描かれることも。後に宝物ではなくても七福神が乗っているものも誕生しました。いずれも進学、就職、結婚などといった新たな旅立ちを意味しますので、お嬢さまの門出に最適な文様のひとつです。

振袖:吉澤織物
帯:梅垣織物

束ね熨斗(のし)

  • 振袖:丸福染匠

熨斗は、鮑の身を薄く削いでたたいて引き伸ばし、紙の間に挟んで祝儀の進物や引き出物に添えたのが始まりです。熨斗袋の右上に貼られていたり、印刷されている縦長変形六角形の紙で黄色いものを包んでいるのが、いわゆる熨斗です。
それを細く帯状にして文様化したのが熨斗文様で、大変縁起の良い文様です。多くは数本を束ねて文様にしているので束ね熨斗と呼ばれます。
長ければ長いほど、長寿祈願の意味が重なり、振袖を衣桁にかけて見ると大きくいっぱいに描かれているのが分かります。花の丸のように具象化されたデザインなどもあり、さまざまな描かれ方をします。
もともと進物や引き出物ですので、贈り、贈られる絆やつながりを意味することから人付き合いで困らないというお嬢さまの大人としての旅立ちにふさわしい、格の高いおめでたい文様です。

宝尽くし

宝物を集めた、もともとは中国の文様ですが、室町時代の頃に日本に渡来し、徐々に日本風にアレンジされ、時代によって少しずつ変化をしています。富貴繁栄、開運招福など、宝尽くしだけに、お目出たいことこの上ありません。これらはまとめて描かれることもありますが、束ね熨斗や扇面、鞠、貝桶などの中に個別に描かれることもあります。現代でイメージするところの、猫型ロボットがお腹のポケットから次々と出す便利な道具さながらのものばかりです。

  • 打ち出の小槌
    一寸法師や七福神の大黒天様が持っているのでなじみのあるものですが、こちらもまさしく吉祥文様です。振れば背が伸びる、宝物が出る打ち出の小槌、欲しいと思ったことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

  • 丁子
    召し上がったことがある方ばかりだと思います。これはスパイスのクローブのことで、シルクロードを通って平安時代に日本に渡りました。当時は胡椒などと共に薬用に、染料に、油にと大変貴重で高価なものでしたので、宝物のひとつとされました。

  • 如意宝珠
    宝の珠で、かわいらしいカタチの先端からは火炎が燃えていて、金銀財宝を思いのままに好きなだけ出すことができます。法具のひとつで、実際にイメージしにくいお宝ですが、願いをかなえるため身に着けたい文様です。

  • 隠れ蓑/隠れ笠
    誰もが一度は夢見たことがある透明人間。天狗の道具とされる隠れ蓑、隠れ笠をかぶると他人からは自分の姿が見えなくなるという道具です。

  • 巻物
    宝巻、巻軸とも呼ばれます。お家の秘伝やお経が書かれた大変貴重なものでした。二つの巻物入れを十字に重ねた文様は筒守と呼ばれ、同じく大変貴重な宝物です。

  • 花輪違い
    花輪違いとは七宝のことで、七宝とは仏教の言葉で、金、銀、瑠璃、玻璃(水晶)、珊瑚、瑪瑙、硨磲の宝物を意味します。七つの宝を文様化し、連続する丸で永遠、丸の連続で円満を意味します。

  • 金嚢
    巾着袋のことで、中身が砂金や金銀貨ですので、現金の財布です。

  • 分銅
    地図記号で銀行を表す印も分銅を基にしています。秤で重さを量るときの分銅で、「ぶんどう」ともいいます。