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特集

東京の伝統工芸を訪ねて
江戸の粋を
愉しむ夏

写真:和田久士  スタイリスト:本多恵子
ヘアメイク:小須賀 真弓  モデル:藤井かほり、JKS専属モデルSEIRA
商品協力:近江屋株式会社、株式会社竺仙、啓明商事株式会社、株式会社小川屋、株式会社望幸
撮影協力:ロイヤルパークホテル、福徳神社、室町ベイホテル

江戸、東京というと何を連想しますか?
江戸といえば「粋」という言葉がぴったりくるような気がします。
とりわけ、夏。四季折々に江戸の風情はあるものの、江戸の夏は格別です。
浮世絵やら日本画のシーンが浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
花火、打ち水、ぶた蚊遣り、祭り、盆踊り、団扇、蚊帳、金魚に蛍、すだれ、風鈴、釣り忍……、
江戸の夏をイメージさせてくれるもののなんと多いことでしょう。
中でも浴衣は格別で、「江戸浴衣」ともなれば、懐かしい一枚から、着物ファン垂涎のものまで、
夏が近づいてくるとなんとなく心浮き立つものがあります。
この夏は、そんな江戸浴衣を中心に、着物にまつわる東京の和装に関わる伝統工芸品を集めてみました。

黄八丈

着るひと/藤井かほり

夏黄八がくれる、
軽やかな夏の日


着物:本場黄八丈染 夏黄八(染:伝統工芸士 西條吉広)
帯: 本場筑前博多織なごや帯「涼染」/近江屋

夏のよそ行きは着物で

高温多湿の日本の夏。地球温暖化だけでなく、特に東京をはじめとする大都市の夏は、エアコンの室外機の排出する高温の空気や高層ビル群の林立による風の流れの変化、アスファルトの照り返しなど、さまざまな条件が重なって、江戸時代の夏よりもはるかに過酷な暑さになっています。出かける気にもなれないような厳しい夏。ワンピースを着ても、スーツを着ても汗は容赦なく流れ続けます。

着物はもっと暑い!とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、機能性の肌着や着方を工夫して、夏の着物に袖を通して背筋を伸ばしてみると? 涼しいとは言い切れませんが、ここが心意気のなせる技。姿勢と共に気持ちもシャンとして心が整います。心が整えば前向きな気持ちで、暑さに立ち向かえるから不思議です。

雪輪や流水の文様など、着ている本人の涼しさにはなんら変わりはなくても「見る人が涼しい」という着物の粋。持ち物を整える、着物の支度をする。そんな気分のハリがくれる充実した一日。例えば文化講演を聴きにホテルへ出かける、観劇、お稽古、ランチにお茶、旅行やショッピング……、夏のお出かけは、何を着ても暑いのだから、着物で愉しんだほうがオトクかもしれません。

ロマンを感じさせてくれる織物

  • 平織は2枚綜絖。八丈島ならではの伝統的な綾織は4枚使うことも。

  • 染めては干し、また染めては干すという根気のいる染めが生み出す黄八丈の色。

品川ナンバーが走るそこは、都心から南へ約300kmの海上、外周約60㎞という小さな島、八丈島。高知県の室戸岬とほぼ同じ緯度に位置しています。黒潮のもたらす恵みや、漂着物と共に、独自の文化が育まれてきました。流れ着く人も、物も温かく迎え入れ包み込むという懐の深さは、「おじゃれ(いらっしゃいませ)」という島の方言の響きの温かさが表しているようです。

黄八丈の歴史は明確ではありません。最初に文献に登場するのは、本居宣長の『玉勝間』で、そこには「『神鳳抄』という書物に「八丈絹」という記述がある」と書かれています。しかし、実際はもっと古くから作られていたようです。 徳川の時代には、630反もの黄八丈が租税として上納されています。武家大名、高官、御殿女中に用いられ大奥でも一世を風靡し、八百屋お七を演じる歌舞伎役者もまた、黄八丈を着ていたことから江戸市中では大ブームになりました。

こくのある独特の黄色はイネ科の「こぶなぐさ」で染めます。島では刈安と呼ばれています。種から育てた刈安を1日中煮詰めた染料に糸をつけ込み、一晩置いて屋外で乾かします。それを色の濃さや糸の性質を見ながらおよそ15回から20回ほど繰り返してからアクヅケ(媒染)をします。媒染剤は島の椿と榊の若い枝を燃やして作るおしろいのような白く粒子の細かい灰を用います。 茶褐色は「タブノキ」で刈安と同じような作業を、黒褐色は「イタジイ」で、これもまた同じような大変な作業をして染めますが、媒染は「泥ヅケ」という、大島紬の泥染めのようなことをします。そうして気の遠くなるような手間暇をかけて染めた糸をようやく機にかけるのです。

平織の他に、「めかご」「市松」「丸まなこ」「風通崩し」「杉綾」「たつみ織」と数百を超える織りの種類があります。さて、ところでこの島の名前。江戸時代に一疋(反物二反分)が約24メートル。曲尺で約八丈なので八丈絹、と呼ばれる布を織っていたから「八丈島」となったと、前述の本居宣長の『玉勝間』に記された『神鳳抄』にあり、結城地方で織られているから結城紬、奄美大島で織られているから大島紬など、地名の付いた織物と全く逆で、島の名前が無い頃から織られていた織物が島の名前になったという、なんとも興味深い不思議があります。黒潮が何を運んだのか? 伝説も多く残っていますが、誰にも分からないところにロマンを感じる織物です。

何度か爆発的なブームになっている黄八丈。八丈島に自生するものだけが生み出す色は、日本人の肌によくなじみます。P6のモデル着用は透け感が魅力の夏黄八。下の写真は単衣か袷で着用する本場黄八丈。昭和52年に伝統的工芸品に指定されています。

空港アクセスの良さから、外国人宿泊客や国賓も多く、VIPも愛用する今回のロケ地「ロイヤルパークホテル 東京・日本橋」。ロビーには、世界的照明デザイナーの石井幹子氏が、無数の星が輝く天の川をモチーフにデザインしたシャンデリアが輝きます。七夕の夜を思わせるシーンが夏号にぴったりと、撮影をお願いしたところ、快く撮影させてくださいました。宿泊だけでなく、季節に合わせた食のイベントも魅力的な同ホテル。今号のテーマでもある「粋な街東京」の、意気なおもてなしをぜひ一度、着物姿でたっぷりと味わってみてください。P11(1階 ロビー外噴水)P12(20階 レストラン&バンケット「パラッツオ」)P16 (20階 鉄板焼「すみだ」)

ロイヤルパークホテル 東京・日本橋
〒103-8520 東京都中央区日本橋蛎殻町2-1-1
03-3667-1111(代表) https://www.rph.co.jp/