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工房探訪 博多織

2017/06/01

工房探訪

「絹鳴り」と共に776年
博多織

粋な帯の代表ともいわれる博多帯。一度締めたら緩まないため、「帯は博多」と、武士に愛された締め心地でした。その独特の織技法は、七百年以上も前の国際都市覇家大(博多)に始まりました。きゅっきゅという「絹鳴り」の音と共に、今も愛され続ける博多織の魅力に迫ります。

博多織
通商産業大臣が「伝統工芸品」に指定
三大帯産地の一つ、博多地域でおられている。(他は京都市西陣、群馬県桐生市)

 

福岡市周辺、鎌倉時代から大陸への門戸となっていたこの地は、日宋貿易の港として発展、深い交流を図っていました。多くの人、文化、物資が行き交う中で、仏教徒も多く渡来し、寺社町がつくられました。その地に今も残る「承天禅寺」の碑に残された『満田弥三右衛門』が博多織発祥のキーマンです。

博多商人の満田弥三右衛門が南宗へ渡り6年かけて学んできた技術は、朱焼、箔焼、鑓飩、餞頭、器香丸、そして織物でした。帰国後には、博多の人々のために技術を伝授しますが、織の技だけは家伝としてさらに創意工夫を重ねます。

宗の旅へ同行した高僧聖一国師に教えを乞い、煩悩を打ち払う「独鈷」と、散華のための「華皿」という仏具を、オリジナルモチーフとして織り出します。さらに250年後、子孫がさらに改良を重ね、現在のような丈夫でしゃっきりとした風合いへと進化しました。

江戸時代になると、この地を治めていた筑前藩主黒田長政が、江戸幕府への献上品として、独鈷柄の博多帯を選ぶことで、「献上博多」としての名と締め心地が各地へ広がり、二本の刀を支える男帯の代表とされました。その後は、はなやかな町民文化と共に、歌舞伎役者市川団十郎や岩井半四郎、博多芸者たちの衣装になり、一般庶民に憧れられるところとなり、庶民にも浸透していきました。明治時代以後には、ジャガード機による紋技術を駆使した「紋博多」などで新たな帯、きもの、袴地なども生まれます。

博多織の多様な織は、確かな締め心地と共に、きもののプロから愛好家まで、現代のきもの好きに引き継がれています。

 

きりりとした潔さ、一度締めたら緩まない締め心地。「献上博多帯」の秘密は、独自の糸使いにあります。

一つめのポイントは、経糸本数の多さです。一反幅の経糸本数が他の物よりも圧倒的に多く、七千本から、多いもので一万五千本に至るものまであります。糸本数が多いということは、一本ずつの糸が細く、より繊細な表現と、しなやかさ、丈夫さにつながる糸使いであるということになります。それに比べ、緯糸は、太く撚りの甘い糸が使われます。

本数の多い経糸を扱う織機には、これを操る「機仕掛け」を設計、整えるにもまた大変な手間が必要となります。「仕掛け八割」といわれるほど複雑で、織手同様に熟練の職人技が必要とされています。

二つめのポイントは、打ちこみの強さ。特に手機では「三度打ち」とよばれるように、トーン、トン、トンと、1回抒を通すたびに、強い力で三度ずつ打ち込んでいきます。かつては、男性職人しか博多織の織手は務まらないといわれたほど、力のいる作業。「絹嗚り」もこの打ち込みの強さに一因があります。

この経緯の糸の違いと強い打ち込みにより、緯糸は経糸でみっちりと覆われ、全く見えないように織り上がります。表面には、太い綽糸に沿って横畝が浮き上がりつつ、経糸に染められた浮線紋(模様柄)と柳条(縞柄)がくつきりと織り上げられています。

パリッと張りのある織り上がりは、タフタ=琥珀織とも呼ばれる地厚なものとなります。しなやかさと丈夫さを兼ね備え、男女問わずに愛される締め心地を生み出しています。

 

現在、福岡市周辺では、一番古い織屋「西村織物」さんをはじめ、10社ほどの博多織の織屋さんが実働しています。きもの業界の製造が減る一方の近年で、いまも現状維持し続けているということが、博多織の根強いファンの多さを証明しています。

かつて手機のみだった樽多織にも、明治時代にジャガード機が輸入、導入されるようになってから織技法が増え、いま現在、「博多織工業組合」が指定する伝統7品目には、「献上・変わり献上」、「平博多」、「間道」、「総浮」、「捩り織」、「重ね織」、「絵緯博多」があり、これ以外にも、各社さまざまな創意工夫を凝らした博多織を発表し続けています。これらの技法を使って作られ続けている製品は、献上帯以外にも多岐にわたっています。

袋帯
本袋帯、袋帯共に、フォーマル、セミフォーマルシーンでも締められる格のある柄が織り出されています。特に佐賀錦袋帯は、経糸に使われる金箔が、落ち着いた輝きを放ち、モダンな格上の装いにぴったり。いまも、きものファン憧れの帯です。

八寸なごや帯(袋なごや帯)
八寸なごや帯の代表のようにいわれる「博多献上なごや帯」。従来のタイプ以外にも、最近は明るい多色使いのものも。もちろん、献上柄以外の色柄も、カジュアルシーンに締めやすく、通年締められる単衣帯ですのでとても人気があります。

九寸なごや帯
緻密な紋織の九寸帯。上品な色柄も多く織られています。

半幅帯
単衣帯、袷の小袋帯ともに、たくさんの色柄が楽しまれている半輻帯。色柄により、パーティー着から日常着、もちろんゆかたにと、広く愛用されています。

角帯
「男帯といえば、博多」といわれるほど定番中の定番。単衣、小袋にも、独鈷柄に限らずさまざまな柄があります。

夏帯
捩り織を駆使して涼やかな透け感が織り出されている紗献上や、紺献上がおすすめです。

きもの

紋織を得意とした博多ならではの、先染めのきもの地、「博多御召」、「風通織」など手の込んだものが多く、さり気ないおしゃれ感で愛用者が増えています。

袴蝸

かつて博多帯と共に献上されていたという博多織の袴地。しなやかでしつかりとした地風で、いまもファンが多くいます。

伊達締め

昔から締まりの良さで愛用者の多い博多織の伊達締め。美しい着付けに欠かせない、見えないところこそこだわりたいと、きもの通に愛用者が多いのもうなずけます。夏用の透け感のある紗献上も、すてきです。


カジュアルからセミフォーマルまで、幅広く使われている現在の博多織。各社で織られる博多織に対し、博多織工業組合は、組合員の製品の品質の確かさを証明するための証紙を、2種類発行しています。絹50%以上使用のものには金色の証紙、絹50%未満使用のものには青色の証紙が貼られていて、安心して買い物ができると、目安のひとつにされています。