Ruruto

工房探訪 西村織物 vol.2

2018/03/01

工房探訪

博多織最古の織元

本社社屋、工場、ギャラリー「博多織献上館にしむら」を有する広い敷地。

社訓「誠実是最上(せいじつこれさいじょう)」

極細の経糸を繰る、仕掛け八割

「博多帯締め、筑前しぼり、歩む姿が柳腰」と『正調博多節』に謡われてきた博多織の献上帯。西陣、桐生とともに三大帯産地の一つにあげられる博多で、代々の職人たちによって織り継がれてきました。今号では、いまも10軒程の織元が稼働するこの地へ、博多織最古の織元「西村織物」を訪ねました。写真は、「マルニ」印の暖簾がかかるギャラリー入口。

博多織を代表する帯「博多献上」といえば、シャキッという言薬がそのまま締め心地を表すかのような地厚でハリの強い風合いで知られます。帯姿が決まりやすい、使い込むほどにこなれて手放せなくなる、一度締めたら緩まないといいことづくめ。

その人気の締め心地は、6千本以上並ぶ経糸本数の多さと、地の緯糸が見えないほど強い打ちこみ加減から生まれます。特に西村織物では、多いもので1万本もの経糸本数。世界最高品質のブラジル産生糸が使用され、丈夫でいてしなやかな織物の上台となります。ここに織り込まれる緯糸は、撚りが甘い太い糸。織り上がった後は表から見えなくなるほど、みっちりと並んだ経糸で覆いつくされ、緯糸方向に筋が見える畝が現れます。帯を締めるとき、この畝がすべり止めとなることで、緩みにくさの一因にもなっています。

もちろん経糸本数を多くするには、1本の糸が細く丈夫でなくてはならず、その扱いには高度な技術を必要とします。そのために欠かせないのが「機ごしらえ」。複雑な図面から、細い経糸本数や複雑な織機の仕掛けを割り出して整え、織り始める前までの機ごしらえに、8割もの時間とエネルギーが注がれているというほど大切な下準備の工程。デザイン、図案創作から製織、仕上げに至るまでの全ての工程を社内で行っている西村織物でも、ベテラン仕掛職人さんの活躍が欠かせません。

①極細の経糸 ②「糸繰り」工程 ③「糸室」で出番を待つ最上級の生糸
④PCでの図案づくり ⑤⑥無数の色見本裂。ここからえらばれた色から図面が生まれていく。

創業百五十有余年

かつて武士たちの脇差2本を支えた丈夫さと締め心地によって「帯は博多」と言わしめた博多織ですが、その名が全国に広まるよりはるか以前に、起源がありました。

大陸に近く、早くから海外との貿易が盛んだった港町博多は、鎌倉時代には貿易船が往来していた国際都市でした。仏教伝来と共に僧侶たちの出入りも盛んで、高僧聖一国師について博多商人満田弥三右衛門が宋に渡って織の技術を習得して来たことが博多織のはじまりと伝えられています。ゆえに仏教との関係が深く、仏具の「独鈷」、「花皿」が意匠として取り入れられたのです。

さらに時代が進んだ江戸時代、時の筑前藩主黒田長政が5色の帯地と生絹3疋を献上したことにより「献上博多」の名がつき、以後、日本中で広く愛されることとなりました。

この地で最古の織元西村織物は、戦国時代の武士西村増右衛門道徹が絹糸などの朱印船貿易を開始したのが歴史のはじまりです。以後、受け継がれてきた織物業は現在の社長西村聡一郎さんで6代目となります。

「戦時中には4代目の出征、福岡大空襲による会社の喪失などいろいろあった弊社。けれど残された織機一台で伊達締製造から再開されて職人肌の父へとバトンタッチ、私まで引き継がれてきました。これからも時代の変遷に合わせて、にしむらの暖簾を守っていきたいです」と語られました。

長い中央通路の両脇、20台もの織機が稼働し続けている。

夏こそ博多

透けた目が涼やかな紗献上八寸帯。

更に涼しく「紗献上 博多帯」

通年便利に使えるのが博多織の「献上帯」。筑前藩主黒田長政が幕府柄の献上品として選んだほどの銘品として長く愛されてきましたが、昭和に入ってから考案されたといわれるのが「紗献上」です。

織目が粗く透いて見た目にも涼やかな夏帯として、盛夏はもちろん、6月半ばから9月の残暑時期にかけて締められています。

目が透いたように見えるのは、「捩り織(=絡み織)」技法で織られているため。捩り織とは、地の経糸と捩る経糸を、1本ずつ交互に並べ、緯糸が1回織り込まれる度に、捩り用の経糸を左右に振っていく織り方です。糸同士がしつかりと絡みあうため、隙間が空いていても糸が浮いたりズレたりすることがありません。

「仕掛け八割」といわれるほど手間のかかる機ごしらえ。極細のかぎ針で、綜絖(そうこう)の穴に経糸を通していく。

「透かし目」ともよばれる隙間はデザイン的に計算して空けることもできるため、見た目の美しさはもちろん、通気性の高い涼感、ハリ感のある軽さが好まれ、汗ばむ季節にはとても重宝な風合いです。

夏季のお太鼓姿にも軽やかな空気感を感じさせる袋帯、名古屋帯や、ゆかたに欠かせない半幅帯、そしてきもの通こだわりの伊達締にと、夏のきもの姿には欠かせません。

西村織物の紗献上は、かつての献上らしい独鈷柄だけでなく、透明感のある明るい色目から、粋な落着きある幾何学模様や、品格ある柄まで、幅広い柄行。織る物によって変えられるほどの糸使いのこだわりにより生み出される、絶妙な風合いのバリエーション。

実際に締めてみて、その手触り、軽さ、そして締めたときの形がパッと決まる感覚に驚かれる人も多いとか。締める方にも、姿を目にする方にも涼やかさを感じさせてくれる紗献上。夏にこそ、ワンランク上のきもの姿を目指す方御用達の趣ある帯として、愛用されています。