Ruruto

装いは人柄 vol.25

2018/06/01

装いは人柄

日本女性の引き出し

日本には二十四もの美しい季節があります。四季折々の移ろいの中にさらに、空や大地の営みや、気配や気分が変わるたくさんの季節を二十四節気と呼び、多くの年中行事や風習がそれにしたがって営まれてきました。
美しい国に生まれたことを悦び、先人たちが、季節に寄り添い、自然の中で生きてきたステキな行事や風習をきものの世界をとおしてお伝えしていきます。

末摘花の季節です。

葵上、藤壺、夕顔、末摘花、朝顔……、『源氏物語』の主人公、輝くようなイケメン光源氏の恋人たちの名前には、どうして夏の花がおおいのでしょうか?
紫式部は夏が好きだったのかもしれない、いや宮中の女性たちが好きな花々だったかと、入道雲を眺めながら荒唐無稽なことに思いを巡らせる夏の夕暮れ時。

末摘花は鼻の赤い女性で、光源氏の恋人たちの中ではめずらしく、美女としては描かれていませんが、なんとも存在感のある登場人物の一人です。末摘花が紅花の別名と聞けば「鼻が赤い」が、紅花をひねったのかもとポンと手を打ちたくなってきます。このネーミングセンスを考えると、その他の女性たちもいかにもそれらの花々の雰囲気をたたえていたのだろうと想像に難くありません。

紅花は夏の花。アザミによく似た形の花が、7月初旬から咲き始め、黄色の花の外側や下が少し赤みを帯びてくる中旬から下旬にかけて収穫期を迎えます。トゲがあるので朝露で湿ってトゲが柔らかくなっている早朝5時頃に収穫をします。
収穫するのは花びらで、収穫後はよく洗って空気を含ませながらよくもみ出します。この後発酵をすると、真っ赤なジャムのような状態になるのです。まあるく並べて脱水し、圧搾して天日で干せば「紅花餅」の完成。餅といって焼いて食べるわけではなく、この紅花餅が「京紅」と呼ばれる口紅や、着物などの紅花染の原料になるのです。

湯上りに、洗いざらしの注染の浴衣に袖を通し、生乾きの髪をざっくりと結い上げて団扇で扇ぎながら夕涼み。
時間のスピードがとても速い現代社会の中で、縁側や窓際でこんな時間が過ごせたら……、毎日は無理でも、例えば週末だけ、例えば旅先の宿で、ゆっくりと夕涼みなどができたら心豊かな夏になりそうです。

日が暮れたら京紅の蓋を静かに開け、指でそっと唇に紅を置いてみます。末摘花は美女として描かれませんでしたが、女性の美が際立つ瞬間いつもそこにいるようです。